お箸に関する社会記事

<割りばし>輸入先・中国が生産制限 弁当業界などに影響
 使い捨ての代表格として、国内で年間約250億膳(ぜん)が消費される割りばし。その9割を占める輸入先・中国が生産制限を決め、弁当や外食など関連業界に影響が出始めている。安さに飛びつき、国内生産地を切り捨ててきたツケとも言え、業界・消費者双方に農林業生産空洞化の問題を示す一例だ。【小島正美】
 “中国ショック”は2段階で到来した。最初は昨年11月、中国の輸出団体が「原木の高騰」などを理由に、日本割箸(わりばし)輸入協会(大阪市)に50%もの値上げを通告してきた。それでも中国産は1膳約1〜2円。国産は同2〜20円程度なので、まだ価格面の優位性は動かなかった。
 ところが今年3月、今度は中国政府が「森林保護」を理由に生産を制限し、将来的には輸出も禁止すると決めた。建築には使いづらいシラカバや他の間伐材を主原料にしているが、森林乱伐による洪水や砂漠化などが問題化する中、矛先の一つになった形だ。
 では、日本国内の状況はどうか――。実は20年前まで、割りばし生産量の約半数は国産だった。ところが90年代以降の低価格競争の波の中、安い中国産が急激に増え、気が付けば9割を超えるまでになっていた。
 国内の2大産地は北海道と奈良。高級品主体の奈良は今も命脈を保っているが、中国産と競合した北海道は壊滅状況だ。85年当時、北海道には生産会社が約70社あり、約1900人の従業員がいたが、04年現在で8社約40人にまで激減した。山口晴久・同協会広報室長は「このままだと、いつ割りばしがなくなってもおかしくない状況になってきた」と危機感を抱くが、一度減った生産量は簡単には戻らない。
 外食や安売り店には、既に影響が出ている。
 全国で約760店の居酒屋などを展開するマルシェ(大阪市)は年間約1500万膳を使ってきたが、2月からフランチャイズを含めた全店でプラスチック箸に切り替えた。さらに、直営の約250店では「MY箸」ポイントカードを作り、はしを持参した客には1回50円のポイントを付け、10ポイントで500円分の飲食をサービスするほか、50円を自然保護団体に寄付する活動を始めた。直営の居酒屋「酔虎伝・新宿三丁目店」(東京都新宿区)の石本千貴店長は「割りばし廃止への苦情はありません」と安堵(あんど)する。
 一方、コンビニ業界は「物流コストの削減などで吸収する」(セブン&アイ・ホールディングス)「しばらくは現状のまま」(ローソン)と、推移を見守っている状況。
 輸出禁止は本当にあるのか、あるとすればいつか。今後は中国政府の動きにかかっているが、山口室長は「弁当や外食なども、いずれ消費者がお金を払って割りばしを買う時代がくるのでは」と予測している。
(毎日新聞)

割り箸が一斉値上げ
弁当、コンビニ業界に新たな“中国リスク”

2006年3月27日 月曜日
中国 外食 カントリーリスク
 原油高の影響で包装資材が全般に値上がりする中、流通、外食大手の眼前に、割り箸の値上げという新たな難題が浮上している。 ある大手コンビニエンスストアは2月下旬、店舗向けの割り箸の価格を15%上げた。「店舗の売上高の3分の1に当たる弁当類のほか、カップ麺につける必要がある。多数の商品にかかわり、オーナーのクレームの原因になるだけに避けたかったのだが」(コンビニ)とつらい表情を見せる。 関東、九州などに持ち帰り弁当チェーン「ほっかほっか亭」を展開し、全国約2400店舗で、年間3億膳以上の割り箸を渡すプレナス(東京証券取引所第1部上場)()も、この春に店舗に売り渡す割り箸の価格を4割上げる。全面的に中国に依存したツケ  一般的に、値上げが浸透しにくい川下企業に、一挙に値上げが広がった理由は何か――。

 きっかけは昨年11月。「割り箸を5割値上げする。さもなくば輸出数量を制限する」。中国の輸出会社の団体「中国食品土畜進出口商会」が日本割箸輸入協会にこう突きつけた。対象は日本で消費される割り箸約240億膳のうちの6割に当たるコンビニ、飲食店で使われる主に白樺製の汎用箸。 「割り箸のほぼ100%が中国産だから、拒否すれば、割り箸を入手できなくなる」との危機感が流通、外食企業に広がった。中国は約10年前から日本に割り箸を輸出し始め、「ここ10年で40%ほど輸出価格を下げ、市場を制覇した」(包装卸大手)。だが、価格水準は、今回の値上げで元に戻った。 中国の要求の背景には割り箸の原価上昇がある。安定供給のため中国を調査してきたプレナス商品部購買課の古賀雅也氏は、「昨年から住宅着工が増えて原木価格が上昇、割り箸の価格上昇が近いと見ていた」と証言する。 日本の消費税に当たる「増値税」が輸出品について還付される制度が廃止され、輸出価格の原価が上昇。人件費上昇、人民元切り上げも重なった。 「中国にとって割り箸の輸出価格は安くなりすぎていた」(日本割箸輸入協会の山口晴久専務)。中国政府の後押しを受けて、生産者は一致団結して輸出価格を引き上げることができた。

他国への切り替えは難しく
 中国の要求に対し、日本企業も抵抗してきた。「取引先からは、値上げの前に調達地の再検討や原料変更などが先だと言われた」と山口専務は言う。 しかし、包装卸大手は「あまりにも中国依存を進めすぎたため、割り箸だけはカントリーリスクの回避は難しい」とあきらめ顔だ。 当面、中国国内での調達先などを工夫するしかない。松屋フーズは「商社経由ではなく本社で直接調達するように検討を始めた」。3月までに環境配慮やコスト削減の視点から割り箸をプラスチック箸に切り替えた居酒屋「八剣伝」などを出店するマルシェには、「外食企業から割り箸全廃に関する真剣な相談が来る」(関西八剣伝事業部の杉江賢二直営第一部長)。 2月頃まで各社は様々な道を探った。だが在庫が尽き、冒頭の通り値上げせざるを得なくなった。100円ショップなどに割り箸を卸すアサカ物産(東京都三鷹市)の岸本秀之取締役営業本部長は「3月から1袋80本入りの割り箸を50本に減らした」と、実質値上げの方針を示す。 「もうすぐ、次の値上げがくる」(包装卸大手)という話もまことしやかにささやかれる。中国一本足打法を続ける限り向き合わなければならない割り箸値上げ問題。しばらく悩みは尽きそうにない。

日経ビジネス 2006年03月27日号より